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42. 本当にあった話(前編) -エッセイ

「本当にあった話(前編)」

 (登場人物の背景は、一部変えてあります。)

ロビーを通り過ぎようとすると、宮本さん(仮名)の奥さんがソファーに腰掛けていた。その姿はいつものようにさっぱりとしていて、私を見かけるとすと立ち上がり、柔らかい物腰とともに清清しい声で私に話しかけてきた。
「先生、いつもお世話になっております。」
「あ、宮本さん。こちらこそお世話になっております。」
宮本さんのリハビリの様子を交えながら二言三言話していると、奥さんは何気なく、
「子どもたちが成人するまでは私が頑張らなくては…、」と言った。
宮本さんは私の勤める職場に週に数回、リハビリに来ている。本人はとても若く、まだ人生の半分をやっと過ぎたくらいではないか、というほどだった。現在は、奥さんが宮本さんの代わりに大黒柱となっている。今日は宮本さんのリハビリの日のため、奥さんの運転で来ているのだ。
「こんにちは、宮本さん。今日も宜しくお願いします。」
訓練室の机は宮本さんにはかなり小さい。車椅子のアームレストよりもはるかに突き出た膝が、彼と机までの距離を遠くしている。私は少しでも彼に近づこうと、体をぴったり机に付け、少々見上げながら宮本さんに挨拶をした。紳士的な彼を前に、自然と笑顔がこぼれた。
「宜しくお願いします。」
「先ほどロビーで奥さんにお会いしましたよ。いつもお元気で明るい方ですね。」
なぜそのとき、あんなことを口走ってしまったのだろう…。
「お仕事、頑張らなくちゃって言ってました。」
一瞬書類に目を落とし、顔を上げた次の瞬間、まるで催眠術にでもかかったかのように、深くうな垂れている宮本さんを、見た。

  1. 2011/04/04(月) 09:13:22|
  2. エッセイ

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